大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成5年(ワ)878号 判決

原告

谷本千代子

ほか三名

被告

細川成樹

ほか一名

主文

一  被告らは、各自原告谷本千代子に対し金二〇三七万二五〇一円、原告谷本好則に対し金五三九万〇八三三円、原告谷本秀昭に対し金五三九万〇八三三円、被告谷本寿章に対し金五三九万〇八三三円及びこれらに対する平成二年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを被告らの負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自原告谷本千代子に対し金二二四二万五五九三円、原告谷本好則に対し金六五〇万八五三一円、原告谷本秀昭に対し金六五〇万八五三一円、被告谷本寿章に対し金六五〇万八五三一円及びこれらに対する平成二年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

自動車相互の接触事故で死亡した被害者の遺族が、加害車両の運転者に民法七〇九条、所有者に自賠法三条によつて、損害賠償を請求した事案である。

一  当事者に争いのない事実

1  平成二年七月七日午後一〇時三五分、奈良県御所市大字西寺田四〇九番地の一先路上において、谷本好一(亡好一)が運転中の軽四輪貨物自動車(原告車両)が、北から南に進行していたところ、対向車線を時速一〇〇キロメートルで走行していた、被告成樹が運転する、被告知エが所有していた普通乗用自動車(被告車両)が、センターラインを越え、原告車両に正面衝突し、この事故(本件事故)によつて、亡好一は、同日死亡(当時七〇歳)した。

2  被告成樹には、前方不注意、スピード違反、センターラインを越えた走行の過失があり、民法七〇九条によつて、原告知エには、運行供用者として、自賠法三条によつて、それぞれ、本件事故による損害を賠償する責がある。

二  争点

損害

第三争点に対する判断

一  亡好一の損害(逸失利益) 一一三四万五〇〇三円(原告ら主張一二〇五万一一八五円)

1  国民年金・農業者年金

甲三、七、八、原告谷本好則の本人尋問の結果によると、亡好一は、国民年金法の定める老齢基礎年金を年五二万五九〇〇円の支給を受けていたこと及び農業者年金基金法の定める経営者委譲年金を年一六万九五〇〇円受給していたことが認められるものの、前者については、憲法二五条二項の定める理念に基づき、老齢によつて、国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止するためのものであり(国民年金法一条)、また、後者についても、国民年金の給付と相まつて農業者の老後の生活の安定及び福祉の向上の他農業経営の近代化及び農地保有の合理化を目指すためのものであるから(農業者年金基金法一条)、いずれの給付も、被害者の生活保障を目的とし、全てが被害者の生活費に当てられることを予定しているものであるといえ、相続性は肯定できず、これについて直接死亡による逸失利益として肯定することはできない。

2  農業所得 一一三四万五〇〇三円

亡好一が死亡当時七〇歳であつたことは前記のとおりであつて、甲二、原告谷本好則の本人尋問によると、亡好一は約八反の田を持ち、妻と共に農業を経営していたと認められるところ、平成二年の賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者の六五歳以上の平均給与額が三三八万八八〇〇円であることは裁判所に顕著であるので、これも考慮に入れると、亡好一は少なくとも原告の主張する月二七万〇八〇〇円の所得はあつたと推認できる。そして、七〇歳男子の平均余命が一二・六〇年であることは裁判所に顕著であり、これも考慮すると、亡好一は、少なくとも、原告の主張する五年は就労することができたと認めることができる。

なお、生活費の控除については、原告が、前記のとおり、国民年金と農業者年金を受給していたことを考慮し、それらが原告の生活費に当てられるべきものであることを考慮に入れると、二割と解するのが相当である。

そこで、五年に該当する新ホフマン係数(四・三六四)によつて中間利息を控除すると、原告の逸失利益は右記のとおりとなる。

二  原告千代子の損害 二〇三七万二五〇一円

1  慰藉料 一二〇〇万円(原告ら主張同額)

前記の本件事故の態様、甲三で認められる亡好一の妻である同原告の心情等を考慮すると、その精神的損害を慰藉するには、右記金額をもつて相当と認める。

2  亡好一の損害の相続分 五六七万二五〇一円

3  葬式費用及び墓碑建立費用 一二〇万円(二九〇万円)

甲四ないし六及び原告谷本好則の本人尋問の結果によると、原告千代子は、葬式等亡好一の死亡に関する祭祀について、一九〇万円余の出費をなし、他に墓碑の建立を要すことが認められるところ、それらの損害のうち、本件事故と相当因果関係のある損害は右記金額と認めるのが相当である。

4  弁護士費用 一五〇万円(原告主張同額)

本件訴訟の経過、認容額等を総合すると、弁護士費用としては、右記金額が本件事故と相当関係のある損害と認める。

三  原告好則、秀昭、寿章の損害 各五三九万〇八三三円

1  慰藉料 各三〇〇万円(原告ら主張四〇〇万円)

前記の本件事故の態様、原告谷本好則の本人尋問の結果等によつて認められる同原告らの心情等を考慮すると、その精神的損害を慰藉するのには、それぞれ右記金額を認めるのが相当である。

2  亡好一の損害の相続分 各一八九万〇八三三円

3  弁護士費用 各五〇万円(原告ら主張同額)

本件訴訟の経過、認容額等を総合すると、弁護士費用としては、右記金額が本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

四  結論

よつて、原告らの請求は、被告らに対し、連帯して、原告千代子が、二〇三七万二五〇一円、その余の原告らが各五三九万〇八三三円及びそれらに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 水野有子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例